アルタミラ:「偽作」と疑われた、旧石器時代の最高傑作
スペイン北部カンタブリア州にある旧石器時代の洞窟壁画群。1879年に発見されたアルタミラ洞窟の「大天井」には40頭以上のバイソンが多色で描かれているが、発見当時は「旧石器時代人に芸術は不可能」という先入観から偽作疑惑をかけられ、発見者の名誉は死後まで回復されなかった。
- 微生物(カビ・藻類)の繁殖
- 観光客の呼気・体温による湿度上昇
- 地下水の浸透と湿気
- 二酸化炭素濃度の変化
遺産の概要
アルタミラ洞窟は、スペイン北部カンタブリア州のサンティリャーナ・デル・マル近郊に位置する旧石器時代の壁画洞窟だ。1985年に「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟壁画」として単体で世界遺産に登録され、2008年にはカンタブリア州の他17か所の洞窟群を含む拡大登録が行われた。
洞窟内で最も著名な部分は「大天井(グラン・プラフォン)」と呼ばれる約18メートル×9メートルの壁画区画だ。ここに、赤・黒・茶・黄を使い多色で描かれた40頭以上のバイソン、馬、鹿、猪などの動物群が描かれている。壁面の凹凸を動物の体の盛り上がりとして利用する立体的な表現は、現代の美術批評の視点からも高度な技術と評価されている。
発見と「偽作」疑惑
1879年、スペインの貴族で考古学愛好家のマルセリーノ・サンス・デ・サウトゥオラは、自身の所有地内の洞窟を娘マリアと共に探索中に壁画を発見した。マリア(当時8歳)が「お父さん、牛だ!」と天井を指したのが最初の発見とされる。
サウトゥオラは同年に学術論文を発表し、壁画が旧石器時代のものであると主張した。しかしこれは当時の考古学界から猛烈な批判を受けた。当時の通説では、旧石器時代の人類には「芸術的活動の能力がない」とされており、これほど洗練された壁画が数万年前に描かれたとは信じがたいと見なされたのだ。偽作説を主張する研究者もいた。
サウトゥオラは1888年に亡くなるまで名誉を回復できなかった。彼の主張が正しかったと公式に認められたのは1902年のことだ。フランスのアルデシュやドルドーニュで旧石器時代の洞窟壁画が相次いで発見され、アルタミラを否定し続けることが不可能になったのが契機だった。
2008年の拡張登録
2008年、アルタミラの世界遺産はスペイン北部カンタブリア・アストゥリアス・バスク地方にある旧石器時代の洞窟壁画群(全17か所)を含む広域遺産として再指定された。対象となった洞窟には、エル・カスティージョ、ラ・ガロバ、コバラニャス、チンチョン洞窟などが含まれ、時代はおよそ3万6000〜1万1000年前にわたる。
この拡張登録によって、北スペイン全体が後期旧石器時代における「芸術圏」として評価されることになった。複数の洞窟にまたがる画法や顔料の類似性から、これらの遺跡が単なる偶発的な創作物ではなく、地域的なネットワークや文化的伝統の中で生まれたものであることが示唆されている。
保護と公開の現在
アルタミラ洞窟本体は現在、極めて厳格に管理されている。週に5人程度を上限とした厳選された研究者・専門家のみが入場を許可される抽選制が採用されており、一般公開は実質的に停止している。
洞窟に隣接する国立アルタミラ博物館(ネオ・カーヴ)では、精密に再現されたレプリカを用いて壁画全体を体験できる展示が行われている。ラスコー(フランス)での1963年の公開停止の教訓を踏まえ、本物を守るために本物を見せないという管理哲学が徹底されている。
記録メモ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| UNESCO ID | 310 |
| 登録年 | 1985年(2008年拡張) |
| 壁画の時代 | 約1万4000〜1万1000年前 |
| 大天井の面積 | 約18m × 9m |
| バイソンの頭数 | 40頭以上 |
| 発見年 | 1879年 |
| 真正性認定 | 1902年(発見から23年後) |
| 現在の一般公開 | 実質停止(抽選制、週5人程度) |