パンタナール:世界最大の熱帯湿原、乾季と雨季で別の星になる
面積約15万km²、世界最大の熱帯湿原。乾季は草原、雨季(11〜3月)は国土の80%が水没するという劇的な季節変容を持つ。ジャガー・カピバラ・アナコンダ・オオカワウソ・ヒアシンスコンゴウインコが共存する南米最大の生態系だが、農業牧畜の拡大と農薬汚染で急速に破壊されつつある。
- 大豆農業・牧畜の拡大による湿原の乾燥化
- 農薬・化学肥料による水系汚染
- 違法な野生動物の捕獲・密輸
- 気候変動による乾燥化・水位低下
- 金採掘による水銀汚染
遺産の概要
パンタナールは、ブラジル中西部のマトグロッソ州とマトグロッソ・ド・スル州を中心に、ボリビア・パラグアイにまたがる世界最大の熱帯湿原地帯だ。総面積は約15万〜20万km²(推計により差がある)、アマゾン熱帯雨林と並んでブラジルの「2大生態系」のひとつに位置づけられる。
「パンタナール」という名称はポルトガル語で「湿地」を意味する。パラグアイ川の流域に位置し、年間を通じて水量が劇的に変化する。UNESCO世界自然遺産に登録されているのは2000年で、同時にラムサール条約湿地にも登録されている。
乾季と雨季で別の星になる
パンタナールの最大の特徴は、季節による景観の完全な変容だ。
乾季(4〜10月):広大な草原が広がり、水路沿いにカパレイロ(ヤシ)の林が点在する。ジャガー・カピバラ・オオアリクイ・オオカワウソが草原で行動し、空にはヒアシンスコンゴウインコの青が舞う。野生動物の観察に最適な季節で、エコツーリズムが盛んに行われる。
雨季(11〜3月):パラグアイ川が氾濫し、低地の広大なエリアが浅い水で覆われる。水深は多くの場所で30〜60センチメートル——魚が草の上を泳ぎ、カピバラが浮かぶように移動する。鳥類にとっては最高の繁殖期で、数百万羽の水鳥が集結する。
この年次の「氾濫と乾燥」サイクルが、パンタナールの生物多様性の根幹を支えている。
南米最大の生態系が支える野生動物
パンタナールは確認されているだけで、哺乳類132種・爬虫類177種・鳥類463種・魚類325種が生息する。代表的な動物は:
- ジャガー(オンサ):パンタナールは世界最高のジャガー遭遇率を誇る。個体数は約4,000〜7,000頭と推計される
- カピバラ:世界最大の齧歯類。パンタナールには数十万頭が生息し、ジャガー・カイマン(ワニ)の主要な餌となっている
- アナコンダ:世界最大のヘビ。雨季の氾濫エリアで目撃例が増える
- オオカワウソ(アリアリ):全長1.8メートルに達する世界最大のカワウソ。絶滅危惧種
- ヒアシンスコンゴウインコ:世界最大のオウム目。濃紺の羽毛を持ち、パンタナールが世界最大の生息地
農業と牧畜が「消している」湿原
ブラジルの農業フロンティアの拡大は、パンタナールの周縁部から始まり中心部へと侵食しつつある。大豆農業のための排水工事、牧畜の拡大、農薬と肥料の流入が湿原の生態系を変質させている。
2020年8〜9月のパンタナール大火災では、湿原面積の約28〜30%が焼失した。乾燥の長期化と意図的な放火が重なったとみられ、野生動物の大量死と植生の破壊が記録された。しかしこの出来事は、同時期のアマゾン火災ほど国際的な注目を集めなかった。
記録メモ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| UNESCO ID | 999 |
| 登録年 | 2000年 |
| 総面積 | 約15万〜20万km² |
| 哺乳類種数 | 132種 |
| 鳥類種数 | 463種 |
| 魚類種数 | 325種 |
| ジャガー推定個体数 | 4,000〜7,000頭 |
| 2020年火災焼失面積 | 全体の約28〜30% |
| ラムサール条約登録 | 1993年 |