ドラケンスバーグ:竜の山に刻まれたサン族最大のロックアート
南アフリカとレソトにまたがる「竜の山(ドラケンスバーグ)」の断崖・高山草原・滝からなる自然景観。同時にサン族(ブッシュマン)が残した3万5千点以上の岩絵を擁する「ロックアート・スーパーサイト」でもある。ツクルで発見されたサン族の岩絵群は南半球最大の密集地とされる。白人入植と植民地化によって居住地を追われたサン族の歴史が、この絵と深く結びついている。
- 観光客の岩絵への接触・損傷
- 外来植生の侵入
- 山火事の頻発
- 気候変動による高山生態系への影響
遺産の概要
ウクハランバ・ドラケンスバーグ公園は、南アフリカのクワズール=ナタール州とレソト王国にまたがる山岳地帯の世界遺産。ズールー語の「ウクハランバ(槍に阻まれた場所)」とアフリカーンス語の「ドラケンスバーグ(竜の山)」という二重の名を持つ。最高峰タバナ・ンレニャナ(3,482m)を含む玄武岩の断崖が連なり、多数の滝・高山草原・温帯雨林が多様な自然景観を作り出している。
2000年のUNESCO登録は、この壮大な自然景観と、サン族が残した3万5千点以上の岩絵の文化的価値を同時に評価した混合遺産としてのものだ。同地域はコブラ・レッドデータ絶滅危惧種(ケープハゲタカ、セクレタリーバード等)の重要な生息地でもある。
ロックアートの集積地
ドラケンスバーグのサン族岩絵は、点数・密度・保存状態の観点から世界最高水準のロックアート遺産のひとつとされる。特にツクル岩壁画群(ツクル・ロック・アート・サイト)は、単一の岩面に750点以上の絵が集中しており、南半球で最も密集した岩絵集積地として知られる。
絵の主題は動物(エランド、ライオン、サイなど)、狩猟場面、踊りの集団、そして「シャーマン的変身図」(半人半獣の人物)だ。エランド(大型のレイヨウ)は特別な頻度と敬意をもって描かれており、サン族の宇宙論においてエランドは神と人間をつなぐ媒介動物と位置づけられていたとされる。
サン族の歴史と消えた文化
サン族(別名コイサン族、或いは「ブッシュマン」という蔑称で呼ばれてきた民族)は、アフリカ南部で最も古い遺伝的系統を持つ人々のひとつだ。ドラケンスバーグ周辺では数千年以上にわたって狩猟採集を行い、岩絵を残した。
18〜19世紀のヨーロッパ人入植と共に、サン族は生活基盤を失っていった。白人農場主はサン族の土地を囲い込み、サン族を「家畜を狩る害獣」として扱い、組織的な殺戮を行った。19世紀末までに、ドラケンスバーグ地域のサン族はほぼ全滅した。現在この地域で岩絵を継続制作しているサン族はいない。
カラハリ砂漠(ボツワナ・南アフリカ)に生き残るサン族コミュニティは遺伝的・文化的に同系統であり、ドラケンスバーグの岩絵の解釈に関する知識保持者として学術調査に協力している。
自然景観との一体性
ドラケンスバーグの壮大さは、岩絵と切り離せない。サン族は単に岩を「壁」として使ったのではなく、特定の地形・地質・景観との関係の中で「描く場所」を選んだと考えられている。岩面の選択、描かれる動物と季節の関係、水場や狩猟路との位置関係——これらは岩絵が「自然の中の特定の場所」と結びついた宗教的行為の産物であることを示唆する。
高山帯の生態系は、現在も豊かな生物多様性を維持している。エランド、ブッシュバック、レッドハーテビーストなどの哺乳類が生息し、200種以上の鳥類が確認されている。
記録メモ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| UNESCO ID | 985 |
| 登録年 | 2000年 |
| 岩絵点数 | 3万5千点以上 |
| ツクル単体の岩絵 | 750点以上(南半球最密集地) |
| 最高峰 | タバナ・ンレニャナ(3,482m) |
| 現存サン族 | 主にカラハリ砂漠地域(ドラケンスバーグ地域からは19世紀末に消滅) |
| 保護区面積 | 約24万3千ha |