ファジル・ゲビ:「アフリカのカメロット」——エチオピア帝国の石造宮殿群
エチオピア皇帝ファシリダスが1635年に建設を始めた宮殿群・教会・温水浴場からなる石造複合建築。「アフリカのカメロット」とも呼ばれる独特のエチオピア=アラブ=ポルトガル折衷様式の建築が残る。エチオピア正教の壁画が内部に保存され、第二次世界大戦時のイタリア軍爆撃で一部が損傷している。
- 観光客増加による摩耗・風化
- ゴンダール市街地の拡大による周辺環境変化
- 雨季の降水による石造建造物の侵食
- 修復資金・専門技術者の不足
遺産の概要
ファジル・ゲビ(Fasil Ghebbi)は、エチオピア北西部アムハラ州の古都ゴンダールに位置する皇帝宮殿群・教会・温水浴場の複合建築遺跡である。エチオピア帝国のゴンダール朝を開いた皇帝ファシリダス(在位1632〜1667年)が1635年に建設を開始した「ゲビ(城塞)」を核として、歴代皇帝が増築を重ね、17世紀末までに現在見られる複合体が形成された。
総敷地面積は約70,000m²・城壁の総延長は900メートルに達する。内部には6棟の宮殿・図書館・2棟の教会・豪華な温水浴場・馬小屋が現存する。最も保存状態の良い「ファシリダス宮殿」は高さ3階建ての石造建築で、「アフリカのカメロット(アーサー王の城)」と形容される雄大な外観を持つ。1979年にUNESCO世界文化遺産に登録された。
建築様式の独自性
ファジル・ゲビの建築様式は、純粋にアフリカ的でも中東的でも西洋的でもない、独自の折衷スタイルを示す。エチオピア伝統建築のアクスム様式(装飾的な木組み・突起)、アラブ建築の半円アーチ・ドーム、17世紀にエチオピア宮廷に参入したポルトガル人イエズス会士がもたらしたヨーロッパ的な砲塔・稜堡(りょうほ)の三要素が一体となって融合している。
教会内部にはエチオピア正教(コプト系)特有の壁画が残存している。赤・金・青を基調とし、キリスト・聖母・天使・聖人が描かれたこれらの壁画は、ビザンツ美術の影響を受けながらも独自に発展したエチオピア絵画の最高峰として評価されている。現地では「二次元的人物の目が常に正面を向く」独特の表現様式が保たれている。
第二次世界大戦と損傷の歴史
1936年にイタリアがエチオピアを侵略・占領し、1941年まで植民地支配を行った歴史はエチオピアとイタリアの関係に深い傷跡を残している。ゴンダール要塞は1941年まで枢軸国軍の拠点として使用され、連合国軍(英国・エチオピア抵抗軍)との攻防を経て一部が爆撃で損傷した。
皮肉なことに、イタリアの占領期には宮殿群の記録調査と部分的な修復も行われており、「破壊と保存が同時進行した」という複雑な歴史を持つ。現在見られる一部の石積みは、このイタリア統治期に修復されたものであることが確認されている。
記録メモ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| UNESCO ID | 19 |
| 登録年 | 1979年 |
| 建設開始 | 1635年 |
| 建設者 | エチオピア皇帝ファシリダス(およびその後継者) |
| 宮殿数 | 6棟(現存) |
| 敷地面積 | 約70,000m² |
| 城壁総延長 | 約900m |
| 現在の用途 | ティムカット(洗礼祭)行事での宗教的使用 |