バールベック:人類が動かした最大の石(800トン)が今も採石場に横たわる
- レバノン高原のバールベックには、ローマ時代に建設された神殿群が残る。神殿の基壇に使われた石材「三石(トリリトン)」の一枚は重量800トン——現代の最大クレーンでも1点では持ち上げられない。採石場にはさらに大型の未使用石(1,000トン超)が今も残っており、どうやって搬送・設置したかは完全に解明されていない。
- 所在地・時代: レバノン・バールベック(紀元前9000年〜3世紀(フェニキア・ローマ時代))
- 分類・保全状況: 文化遺産 / 保全状態:要注意
- 所在地:
- レバノン・バールベック
- 遺産分類:
- 文化遺産
- 登録年:
- 1984年
- 保全ステータス:
- 保全状態:要注意
レバノン高原のバールベックには、ローマ時代に建設された神殿群が残る。神殿の基壇に使われた石材「三石(トリリトン)」の一枚は重量800トン——現代の最大クレーンでも1点では持ち上げられない。採石場にはさらに大型の未使用石(1,000トン超)が今も残っており、どうやって搬送・設置したかは完全に解明されていない。
- レバノンの政情不安定
- 2006年・2020年の爆発による周辺インフラ被害
- 資金不足による保護の遅れ
遺産の概要
レバノン東部、反レバノン山脈西麓のベカー高原(標高1,170m)。フェニキア時代から宗教的聖地として使用され、ローマ帝国期に大規模な神殿建設が行われた。
主要建造物:
- ユピテル神殿: 高さ22mのコリント式列柱(54本中6本現存)。最大規模のローマ神殿のひとつ
- バッカス神殿: 保存状態が最も良い。高さ31mの欄間が残る
- ヴィーナス神殿(円形): 小型だが精緻な装飾
三石(トリリトン)の謎
ユピテル神殿の基壇西側に、3枚の巨大石ブロックが積まれている(トリリトン):
| 石 | 長さ | 重量(推定) |
|---|---|---|
| 最大 | 19.5m | 約800トン |
| 2番目 | 19.1m | 約750トン |
| 3番目 | 18.9m | 約700トン |
これらは採石場から750m離れた場所に設置されている。地面からの高さは約7m。
採石場の未使用石
採石場には使われなかった3つの巨石が残る:
- ハジャル・エル・ゴブラ(妊婦の石): 長さ21.5m・高さ4.2m・重量推定1,000トン
- ハジャル・エル・ヒブラ: 20.3m・推定800〜1,000トン
- 2019年新発見石: 約1,650トン(新推定)——現在確認された古代最大の切り出し石
なぜ搬送されなかったか——工事の中断、設計変更、搬送不能と判断した等の説がある。
搬送の謎
現代の研究では、ローマ時代に以下の技術を組み合わせたという説がある:
- 地面を水平に整地: 傾斜を利用しながらローラーで転がす
- スキッド(橇)と大規模な人力: 数千人での引っ張り
- レバー・ウインチの組み合わせ: 高さへの移動
ただし「数千人でも物理的に不可能」という計算もあり、完全な答えは出ていない。
記録メモ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| UNESCO ID | 294 |
| 登録年 | 1984年 |
| トリリトン最大石 | 長さ19.5m・推定800トン |
| 採石場最大石 | 長さ約20m・推定1,650トン(2019年新発見) |
| 採石場からの距離 | 約750m |
| ユピテル神殿の元の列柱数 | 54本 |
関連する歴史遺産・現場調査アーカイブ
カーディシャー渓谷とレバノン杉の森:「神の木材」が消えた谷——聖書とギルガメシュに刻まれた大森林の最後の断片
レバノン北部の深い渓谷(カーディシャー、アラム語で「神聖な谷」)。崖面に点在する初期キリスト教修道院群(5〜17世紀)が「聖谷」を形成する。渓谷上部の「神の杉の森」には、旧約聖書・ギルガメシュ叙事詩に「神の木材」として登場するレバノン杉の原生林が残る。しかし現存する杉はわずか375本——フェニキア人・古代エジプト・ローマの乱伐で、かつて地中海沿岸を覆っていた大森林の99%以上が消滅した。
ビブロス:「聖書(Bible)」という言葉を生んだ、世界最古の継続居住都市のひとつ
レバノン北部の地中海沿岸。世界で最も古くから継続して居住されている都市のひとつ。フェニキア時代にエジプトのパピルスを再輸出する港として栄え、「パピルス」を意味する古代ギリシャ語「ビブロス」が「書物(バイブル)」の語源となった——「聖書(Bible)」という言葉の起源はこの港の名前にある。
ティルス:フェニキア最強の都市国家——アレクサンドロスが7か月かけて島ごと埋めた
レバノン南部の地中海沿岸。フェニキア最強の都市国家。「ティリアン・パープル(ティルスの紫)」——1万個以上の巻貝から1gしか採れない紫色染料の生産地で、王侯専用の色「パープル」の起源。紀元前332年、アレクサンドロスが本土から島まで巨大な土手道(コーズウェイ)を7か月かけて建設し陸続きにして占領した。