ケオラデオ国立公園:殺戮の狩猟場から鳥の聖域への180度転換
元バラトプル藩王国の水鳥大量射殺場として知られた狩猟地が、1982年に国立公園化。冬季に中央アジア・シベリアから渡る150種以上の渡り鳥の中継地となり、絶滅危惧種シベリア鶴の重要な越冬地でもある。かつての殺戮の場が生態系保護の聖域に転換した歴史の逆説を内包する遺産。
- 渇水による湿地の縮小(農業用水との競合)
- シベリア鶴の越冬個体数の激減
- 周辺農地の農薬使用による生態系への影響
遺産の概要
ケオラデオ国立公園(Keoladeo Ghana National Park)は、インド・ラジャスタン州バラトプルに位置する面積約29平方キロメートルの湿地性国立公園だ。アグラから約55キロメートルの距離にある。
冬季(10月〜3月)には中央アジア・シベリアから渡ってくる150種以上の鳥類が飛来し、総個体数は数十万羽に達する。サギ・コウノトリ・カモ・アジサシなどの大型水鳥から小型の渡り鳥まで、アジア有数のバードウォッチングスポットとして世界中の鳥類学者・野鳥愛好家を引きつける。
狩猟場の歴史——「鳥の虐殺」の舞台
ケオラデオの現在の姿を理解するには、その前身である「バラトプル鳥獣保護狩猟区」の歴史を知る必要がある。
19世紀中頃、バラトプル藩王国のマハラジャが領内の湿地に堤防と水門を整備し、水鳥を集める人工湿地を造成した。目的は「水鳥の大量射殺を楽しむ狩猟場」だ。
毎年秋から冬にかけて、マハラジャとその招待客(イギリス植民地当局者・外国の貴賓を含む)が湿地に船で乗り込み、一斉に銃を乱射するイベントが開催された。1938年の記録では、インド総督リンリスゴー卿が参加した1日の狩猟で約4,272羽の水鳥が射殺されている。
この「狩猟の記録」が今日も保護区内の掲示板に掲げられている。
国立公園化とシベリア鶴の危機
1982年、インド政府はこの地を国立公園に指定した。それまで地元農民が行っていた湿地への立ち入り・水牛の放牧が禁止され、地域コミュニティとの軋轢が生じた。
1985年にUNESCO世界自然遺産に登録された主な理由は、絶滅危惧種シベリア鶴(ソデグロヅル)の重要な越冬地であることだった。かつては毎冬100羽以上が飛来していたが、2000年代以降は越冬個体数が急激に減少し、近年はほぼ確認されなくなっている。
繁殖地のシベリアと越冬地インドの間の渡りルートにある湿地の減少・電線による衝突・狩猟が複合的な原因として挙げられるが、決定的な解決策は見つかっていない。
記録メモ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| UNESCO ID | 340 |
| 登録年 | 1985年 |
| 公園面積 | 約29km² |
| 冬季飛来鳥類 | 150種以上 |
| 国立公園化 | 1982年 |
| シベリア鶴越冬数 | かつて100羽以上→現在ほぼゼロ |
| 最大射殺記録 | 1938年・1日約4,272羽 |