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HERITAGE // 世界遺産・人類の記録アーカイブ 自然遺産
HRG-338 2026-06-10
隠れた遺産 — 重要性は世界的だが、広く知られていない遺産の深掘り記録

ケオラデオ国立公園:殺戮の狩猟場から鳥の聖域への180度転換

所在地 インド・ラジャスタン州バラトプル
時代 18世紀〜(元バラトプル藩王国狩猟場)
UNESCO登録年 1985年
UNESCO基準 (x)
保全状態 保全状態:要注意
UNESCO ID #340 ↗
SUMMARY

元バラトプル藩王国の水鳥大量射殺場として知られた狩猟地が、1982年に国立公園化。冬季に中央アジア・シベリアから渡る150種以上の渡り鳥の中継地となり、絶滅危惧種シベリア鶴の重要な越冬地でもある。かつての殺戮の場が生態系保護の聖域に転換した歴史の逆説を内包する遺産。

⚠ 主な脅威
  • 渇水による湿地の縮小(農業用水との競合)
  • シベリア鶴の越冬個体数の激減
  • 周辺農地の農薬使用による生態系への影響
インド自然遺産渡り鳥シベリア鶴絶滅危惧狩猟場湿地
セキュア通信ログ // HRG-338 AES-256
Dr.石神
バラトプル藩王ウダイ・シンの時代(19世紀末)の鳥狩り記録によれば、1938年の英国総督参加の狩猟会では1日でおよそ4,000羽が射殺されている。現在の保護区に生息する全個体数に匹敵しうる数を1日で殺した——その場所が今は保護区だ
パッチ
シベリア鶴(Leucogeranus leucogeranus)は現在野生個体が世界で3,000〜4,000羽程度しかいない絶滅危惧種。かつてケオラデオには冬季に100羽以上が越冬していたが、現在はほぼ来なくなった。繁殖地のシベリアと越冬地インドを結ぶ渡りルートのどこかが崩壊している
Dr.丹羽
1982年の国立公園化に際して、周辺農村の住民は湿地への立ち入りと水牛の放牧を禁止された。生活を制限された地元コミュニティの抗議が続き、一部では暴力的衝突も起きた。保護は誰かの犠牲の上に成り立っているという問いは、この公園の成立過程に刻まれている

遺産の概要

ケオラデオ国立公園(Keoladeo Ghana National Park)は、インド・ラジャスタン州バラトプルに位置する面積約29平方キロメートルの湿地性国立公園だ。アグラから約55キロメートルの距離にある。

冬季(10月〜3月)には中央アジア・シベリアから渡ってくる150種以上の鳥類が飛来し、総個体数は数十万羽に達する。サギ・コウノトリ・カモ・アジサシなどの大型水鳥から小型の渡り鳥まで、アジア有数のバードウォッチングスポットとして世界中の鳥類学者・野鳥愛好家を引きつける。


狩猟場の歴史——「鳥の虐殺」の舞台

ケオラデオの現在の姿を理解するには、その前身である「バラトプル鳥獣保護狩猟区」の歴史を知る必要がある。

19世紀中頃、バラトプル藩王国のマハラジャが領内の湿地に堤防と水門を整備し、水鳥を集める人工湿地を造成した。目的は「水鳥の大量射殺を楽しむ狩猟場」だ。

毎年秋から冬にかけて、マハラジャとその招待客(イギリス植民地当局者・外国の貴賓を含む)が湿地に船で乗り込み、一斉に銃を乱射するイベントが開催された。1938年の記録では、インド総督リンリスゴー卿が参加した1日の狩猟で約4,272羽の水鳥が射殺されている。

この「狩猟の記録」が今日も保護区内の掲示板に掲げられている。


国立公園化とシベリア鶴の危機

1982年、インド政府はこの地を国立公園に指定した。それまで地元農民が行っていた湿地への立ち入り・水牛の放牧が禁止され、地域コミュニティとの軋轢が生じた。

1985年にUNESCO世界自然遺産に登録された主な理由は、絶滅危惧種シベリア鶴(ソデグロヅル)の重要な越冬地であることだった。かつては毎冬100羽以上が飛来していたが、2000年代以降は越冬個体数が急激に減少し、近年はほぼ確認されなくなっている。

繁殖地のシベリアと越冬地インドの間の渡りルートにある湿地の減少・電線による衝突・狩猟が複合的な原因として挙げられるが、決定的な解決策は見つかっていない。


記録メモ

項目内容
UNESCO ID340
登録年1985年
公園面積約29km²
冬季飛来鳥類150種以上
国立公園化1982年
シベリア鶴越冬数かつて100羽以上→現在ほぼゼロ
最大射殺記録1938年・1日約4,272羽