パルミラ:砂漠に咲いた帝国の都が、2015年に爆破された
- シリア砂漠のオアシスに栄えたパルミラは、ローマ帝国とパルティア(ペルシア)の中継地として繁栄した。3世紀には事実上独立してローマを脅かす「パルミラ帝国」を形成。2015年、ISIS(イスラム国)の支配下で神殿・凱旋門・多くの柱廊が組織的に爆破された。
- 所在地・時代: シリア・ホムス県(紀元前2千年紀〜紀元後3世紀(最盛期はローマ時代))
- 分類・保全状況: 文化遺産 / 危機遺産 ⚠
- 所在地:
- シリア・ホムス県
- 遺産分類:
- 文化遺産
- 登録年:
- 1980年
- 保全ステータス:
- 危機遺産 ⚠
シリア砂漠のオアシスに栄えたパルミラは、ローマ帝国とパルティア(ペルシア)の中継地として繁栄した。3世紀には事実上独立してローマを脅かす「パルミラ帝国」を形成。2015年、ISIS(イスラム国)の支配下で神殿・凱旋門・多くの柱廊が組織的に爆破された。
- ISISによる組織的破壊(2015〜2017年)
- シリア内戦による継続的被害
- 復旧・記録の困難
- 略奪による遺物の散逸
遺産の概要
パルミラはシリア中部の砂漠に位置するオアシス都市。紀元前から交易路の要衝として栄え、ローマ時代に最盛期を迎えた。長さ1.2kmの柱廊道路、ベル神殿、バアルシャミン神殿、凱旋門——これらがシルクロードの要衝に建設された。
ゼノビア女王とパルミラ帝国
3世紀、パルミラはゼノビア女王(在位271〜272年頃)の下でローマからの独立を宣言し、「パルミラ帝国」を形成。エジプト・小アジア・シリアを支配下に置き、ローマ帝国の東半分に匹敵する版図を誇った。
ゼノビアはギリシャ語・ラテン語・エジプト語・アラム語を操り、哲学者や詩人を宮廷に集めた知識人でもあった。最終的にローマ皇帝アウレリアヌスに敗れてローマへ連行されたが、晩年はローマ近郊の別荘で暮らしたとされる。
2015年:世界遺産の爆破
2015年5月、ISISがパルミラを占領。
- 2015年8月: ベル神殿(紀元32年建立)を爆破
- 2015年8月: バアルシャミン神殿を爆破
- 2015年10月: 凱旋門を爆破
- 2016年: 凱旋柱廊の多くの柱を破壊、タドモル城塞を爆破
83歳の考古局長ハーレド・アサード氏は、遺物の保管場所を白状するよう求める拷問に抵抗し、公開処刑された。彼は1963年からパルミラの発掘・保護に携わってきた。
現在の状況
2016年にシリア政府軍がパルミラを奪還。破壊された構造物の一部は3Dスキャンデータや写真を元に復元計画が進んでいるが、2017年に再度ISISが一時占領するなど、状況は不安定だ。シリア内戦の継続により、体系的な修復・調査は極めて困難な状態が続いている。
爆破を免れた建造物や彫刻の多くは事前に避難・移送されたが、略奪された遺物が闇市場に流れた可能性も高い。
記録メモ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| UNESCO ID | 23 |
| 登録年 | 1980年 |
| 主要破壊年 | 2015〜2016年(ISIS支配下) |
| 爆破された主要建造物 | ベル神殿、バアルシャミン神殿、凱旋門 |
| 犠牲になった考古学者 | ハーレド・アサード氏(83歳、2015年処刑) |
| 現状 | 危機遺産指定継続中 |
関連する歴史遺産・現場調査アーカイブ
ダマスカス旧市街:世界最古の継続居住都市が、内戦と放棄で朽ちる
「世界最古の継続居住都市」のひとつとして知られるシリアの首都。ウマイヤ朝の大モスク(705年建設)・バーザール・旧市街城壁が代表的遺産。2011年のシリア内戦では直接の戦場にはならなかったが、難民流入・インフラ崩壊・管理放棄によって遺産が深刻に損傷。国際社会がアレッポとともに「危機遺産」として注目する都市だ。
バビロン:空中庭園が「発見されていない唯一の世界七不思議」である都市
ネブカドネザル2世が建設したバビロンには、世界七不思議に数えられる「空中庭園」が存在したとされるが、考古学的証拠が一切見つかっておらず、実在が疑問視されている。世界七不思議の中で唯一、物的遺構が確認されていない建造物だ。イラク戦争中にサダム・フセインが遺跡内に軍事基地を建設し、重大な損傷を与えた。
ハトラ:ローマ軍を2度撃退した要塞都市を、ISISがブルドーザーで破壊した
直径2kmの円形城壁に囲まれたパルティア帝国の要塞都市。ローマ軍の包囲を2度撃退した難攻不落の城だったが、2015年にISISが遺跡をブルドーザーと爆薬で組織的に破壊した。「文化的記憶の抹消」として国際社会から非難を受けたこの破壊の全容は、2018年のISIS撃退後に初めて明らかになった。